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リウマチ・関節センター【リウマチ・膠原病内科部門】

ベンリスタ®注-PRO重視の時代に現れた、全身性エリテマトーデス治療薬について

はじめに

みなさん、こんにちは。今回は、新規の全身性エリテマトーデス(SLE)治療薬であるベンリスタ注に関して、ご説明しようと思います。ベンリスタは米国の当局が数十年ぶりに承認した新薬です。わが国でも使用できるようになったのを機会に、全身性エリテマトーデスの治療におけるベンリスタの位置づけを中心に、お話をさせていただこうと思います。

「PRO」とは?

のっけから「PRO」という耳慣れない言葉を出してしまいました。「PRO」とは、Patient Reported Outcomeという言葉の略です。日本語に訳しますと、「患者さん自身が治療効果を評価すること」ということになるでしょうか。
こういいますと、「検査結果などの客観的なデータを中心に評価するべきでは?」「PROは意味があるのか?」などとのご意見が当然でてくるものと思われます。

「PRO」の実際をご紹介しましょう。
ベンリスタを使用する患者さんには全員に、「My DIARY」という手帳をお渡しします。
それを開いていただくと、7ページ目の「手帳の記入例」に、「この1か月間の症状を思い出して記入してみましょう」という欄があります。
そこでは、生活に関する10個の項目に関して、5段階で評価するようになっています。
これらの項目こそが、「PRO」です。それらをご紹介します。

  1. 「朝起きた時に疲れを感じた」
  2. 「身体に痛みやうずきを感じた」
  3. 「痛みまたは疲労感のために、長い時間普段の活動ができなかった」
  4. 「身体への影響が理由で、家族としての責任を果たすことについて制限された」
  5. 「SLEが活動やイベントのスケジュールを立てることにおいて影響した」
  6. 「不安を感じた」
  7. 「うつを感じた」
  8. 「集中力の欠如を感じた」
  9. 「自分の外見について人目を気にした」
  10. 「SLEの薬による好ましくない副作用を経験した」

これらが患者さん用の手帳に記載されているのはなぜでしょうか?それは、このような生活に直結する問題を軽減させることが、ベンリスタに期待されているからです。
ベンリスタは、PRO重視の時代に現れた、全身性エリテマトーデスの治療薬なのです。

全身性エリテマトーデスの活動性評価の問題点

今度は、従来からの病状評価の代表として、医師が使っている全身性エリテマトーデスの活動性評価システムをみてみましょう。
SLEDAI-2000やSELENA/SLEDAIは、治験などでよく用いられる活動性評価システムですが、「全身症状」という項目がありません。しかも、個々の臓器病変については、段階的評価ではなく、「有る」「無し」の選択のみです。
これらのシステムが有用であり、これらの評価を重視して治療を調整するべきであることは疑いありません。しかし、患者さんの自覚症状や、患者さんの日々の生活の実情を反映しているか、という点では大いに疑問があります。
その他にも問題はあります。治療薬の副作用による生活上の障害があったとしても、このシステムには反映されず、また別の指標で評価しなければなりません。

また、SLEDAIには、患者さんの生活への影響という視点から考えますと、個々の臓器障害の「重みづけ」にも問題があります。
たとえば、「腎臓病変」に関しては、最大で、「尿沈査の異常」で4点、「血尿」で4点、「蛋白尿」で4点、「膿尿(白血球の増加した尿)」で4点、さらに、補体価が低下して抗DNA抗体価が増加するのがほとんどですから、合計は最大20点となる可能性があります。
一方で「関節病変」の場合は4点のみです。補体価や抗DNA抗体価が入ったとしても8点です。
最大20点対4~8点。この点数づけの違いは、医師としては納得のいくものです。しかし、患者さんの視点ではどうでしょうか?「就業・失業」の観点からみてみましょう(J Rheumatol 2009;36:2470)。
この報告では、関節病変がありますと、無い人に比べて、約3倍、失業の危険が増します。
これに対して、腎臓病変があっても、失業の危険性は増加していません。
腎臓病変の活動性などが考慮されておらず、単純な解釈はできませんが、患者さんの生活にとっては関節病変の方が腎臓病変よりも深刻な場合があるといえそうです。

PROを併用して治療を評価する意義がわかっていただけたでしょうか。
「病気」と「生活」をつなぐ評価システム、あるいは「病気」と「生活」のギャップを埋める評価システム、それがPROなのです。
我々が治療をする・治療を受ける目的は、生活をよりよいものにするということでしょう。治療に用いる薬剤は、PROを改善するものでなければなりません。

ベンリスタはどんな薬か

前置きが長くなってすみません。いよいよ、ベンリスタの説明に入っていきます。
メーカーであるグラクソ・スミスクライン株式会社の制作した患者さん向けリーフレットに沿って、進めていきます。もちろん、いつものように、途中で脱線することがしばしばありますが、ご容赦ください。

ベンリスタは、生物学的製剤(抗体医薬品)に分類されるお薬です。
「抗体」とはどのようなものでしょうか?
一定レベル以上の進化をとげた生物は、病原体から身を守るために、「抗体」という物質を作ります。一つの「抗体」は、一つの病原体だけに特異的に結合して、その病原体を無力化するように働きます。「抗体」のこの性質を利用して、ベンリスタの場合は、BLyS(ブリス)という物質だけに結合し、BLySが働けないようにする作用をもっています。

BLySとは、Bリンパ球を刺激する因子のことです。SLEの患者さんでは、このBLyS が通常よりも多い状態になっています。このために、Bリンパ球が異常に活性化します。
Bリンパ球が活性化すると、抗体を放出するように分化していきます。とくに自己抗体(自分の組織を攻撃する抗体)が放出されると、自分の正常な細胞が攻撃されてしまいます。この結果、SLEの患者さんの体のいろいろな障害が生じると考えられています。

ベンリスタはどのような患者さんに向いているか

<自己抗体の有無では?>

ベンリスタは、このBLySに結合し、BLySが働けなくすることによって、異常に活性化した免疫系を鎮静化させていきます。この結果、免疫系が自分の正常な細胞を攻撃することもなくなり、患者さんの体の障害の進行が抑制されるわけです。
従って、ベンリスタの有効な患者さんは、免疫系、とくにBリンパ球が活性化している患者さんであるということになります。
Bリンパ球が活性化すると抗体を放出しますので、ベンリスタの適応となる患者さんは、「抗核抗体、抗dsDNA抗体等の自己抗体が陽性であることが確認された全身性エリテマトーデス患者(添付文書から引用)」ということになります。

(添付文書に記載された適応からは外れますが、ベンリスタの7年間の長期延長試験の結果などをみますと、自己抗体が陰性の患者さんでも一定の有効性が確認されています。これは、われわれが測定できない自己抗体があることや、BLySが抗体を作る以外の作用を持っていることを反映しているものと考えられます)

<有効性の確認された臓器病変は?>

全身性エリテマトーデスは、個々の患者さんでその病像が大きく異なる疾患です。ベンリスタは、どのような病像の人に有効なのでしょうか。
治験では、重症のループス腎炎や重症の中枢神経ループスの患者さんは対象外とされていました。そのため、これらの病態における有効性は、まだわかりません。
軽症の中枢神経性ループスである「頭痛」に関しては、ベンリスタは有効でした(Ann Rheum Dis 2012;71:1833)。
腎臓に関しては、2つの治験をまとめた検討では、抗DNA抗体価高値かつ補体価低値の患者さんでは、ベリムマブの効果があるようにみえます(Lupus 2013;22:63)。
一方で、治験で効果が確認された病像は、筋骨格系の病変(主には関節炎)と皮膚粘膜の病変(主には脱毛、口内炎、皮疹)です。患者さんの数が少なかったので明確ではありませんが、血管炎(主には皮膚の血管炎)にも有効であるようにみうけられます。抗DNA抗体価と補体価の改善効果も確認されています(Ann Rheum Dis 2012;71:1833)。
また、これらの改善効果は、抗DNA抗体価高値かつ補体価低値の患者さんにおいて、より明らかでした。

<他の治療薬との併用は?>

ベリムマブは、他の治療薬であるステロイド剤や免疫抑制剤、ヒドロキシクロロキン(プラケニル®)と併用されることが多い薬剤です。
その際に、ベリムマブとシクロフォスファミド(エンドキサン®)との併用については、安全性・有効性が確認されていません。現時点では、ベンリスタを導入するときは、シクロフォスファミドは中止するのが無難でしょう。
第3相の2つの治験で併用された免疫抑制剤は、アザチオプリン(アザニン®、イムラン®)、メトトレキサート(メトトレキセート®)、ミコフェノレート(セルセプト®)、シクロスポリン(ネオーラル®)、レフルノミド(アラバ®)でした(レフルノミドはわが国では保険適応外)。
この第3相の2つの治験の結果をまとめた検討では、これらの免疫抑制剤を使用している患者さんにベンリスタを追加しても、重篤な副作用は増えていません(Lupus 2016;25:1587)。
また、この検討では、ステロイド剤とヒドロキシクロロキン(プラケニル®)を使用している患者さんにベンリスタを加えた場合が、最も効果が高かったという結果になりましたが、実際の効果はケースバイケースでしょう。

<PROの改善効果は?>

冒頭でご紹介したように、PROは「病気の改善」と「実生活での改善」とをつなぐ、重要な評価指標です。ベンリスタの治験では、PROが評価されています。
SF-36という評価スコアでは、その身体的活動の領域でも、精神的な領域でも、改善効果が確認されています。特に、社会的活動への心身の影響、身体の痛み、全般的な健康、活力などの項目の改善が指摘されています。
疲労の改善という面では、治療開始後52週の時点でFACITという評価スコアで改善効果が確認されています(Ann Rheum Dis 2014;73:838)。
この効果の一部は、ベンリスタによるステロイド減量効果や、副作用が比較的に少ないことも影響していると考えられます。
ベンリスタの市販後も、先述したMy DIARYなどによって、PROの改善効果のデータが集積されていきます。

ベンリスタの投与方法

点滴と皮下注射の2つの剤型があります。
点滴製剤は、初回、第2週、第4週までは2週間隔で投与しますが、3回目以降は4週間隔で投与します。点滴は、1時間以上かけて行います。
皮下注射は、1週間ごとに投与します。皮下注射は、自宅での自己注射も可能です。

どちらも同じくらいの効果のようです。ただし、皮下注射のほうが後から開発されたので、トラフ濃度(最も薬の濃度が下がる投与直前の濃度のこと)は、皮下注射のほうが上まわるように設定されています。

ベンリスタは、6ヶ月使用しても効果が認められなければ、それ以上使用せず、中止となります。

ベンリスタの副作用と対策

ベンリスタを注射した後に、次のような症状が出た場合には、すぐに医療機関にご相談ください。

<アナフィラキシー反応、過敏症、投与時反応(インフュージョンリアクション)などの、いわゆる全身的なアレルギー反応>

点滴製剤では、7年間の長期継続試験で重篤なアレルギー反応が起こった患者さんは434人のうち1人だけでした。これでわかるように、重篤なアレルギー反応はめったにありません。
自己注射でも投与されるので、皮下注製剤の場合が気になりますが、556人での検討では重篤なアレルギー反応は発生しませんでした(Arthritis Rheumatol 2017;69:1016)。
心配はなさそうですが、念のため、倦怠感や、まぶたや唇、皮膚などの腫れ、息苦しい感じという症状に注意が必要です。
このような症状は、注射から少し遅れて出てくる可能性もあります。
また、発疹や吐き気、疲労感、筋肉痛、頭痛、顔面の腫れといった症状がでる可能性もあります。

<注射部位反応などの、いわゆる局所的なアレルギー反応>

注射した場所が痛くなったり、赤く腫れたり、硬くなったりすることがあります。

<感染症>

治験の第Ⅲ相試験では、全体での重篤な感染症の発症率は、点滴製剤470人のうち11人、皮下注製剤556人のうち8人にとどまっています(Arthritis Rheumatol 2017;69:1016)。これは、通常のSLEの治療から考えて、多いとはいえないと思われます。
このうち、日本人における重篤な感染症の発症率は、点滴製剤39人のうち1人に帯状疱疹(ヘルペス)が、皮下注製剤16人からは発生せずとなっています。少数の患者さんでの結果ですが、ベンリスタは重篤な感染症のリスクは少ないものと考えられます。
しかし、患者さんは一般に、ベンリスタ以外にも感染症のリスクのある薬剤を服用していますので、注意が必要です。「発熱」「頭痛」「咳」「息切れ」「下痢」などの症状があるときは、早めに医療機関を受診しましょう。
結核にかかったことがある人では、ベンリスタの使用時には再発に注意することとされています。
今後の市販後調査で、ベンリスタのリスクはさらに検証されていきます。

<発熱>

ベンリスタの注射のあとで、熱が出ることがあります。

<この他の懸念される問題>

ベンリスタのこれまでの試験で、悪性腫瘍が増加したという報告はありません。同様に、いずれの原因にせよ、死亡率が高まったという報告もありません。

以上のように、ベンリスタは比較的に副作用の少ない薬剤といえそうです。
副作用の多い治療は、病気を改善させるかもしれませんが、PROを悪化させてしまいます。
たとえば、ステロイド剤は、その1日使用量と使用積算量に従って、体重増加や血圧の上昇、コレステロール値の増加、骨の脆弱化などを誘導します。これらは、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性病変や骨折のリスクを高めてしまいます。
だからといって、ステロイド剤を全く使用せずに、患者さん全員を治療できるかというと、現時点ではそれは不可能です。このため、医師は、ステロイド剤の使用量を必要最小限にとどめるように常に心がけています。
ベンリスタによる治療で、ステロイド剤の使用量を減らせることが示されています(Arthritis Rheumatol 2016;68:2184)。
7年間の長期継続試験では、2年後には開始時の量から25%の減量、7年後には開始時の量から55%減量できたことが示されています。
BLISS-52、BLISS-76というベンリスタの試験では、併用のステロイド量は自由に調整できることになっていました。これら二つの試験をまとめた検討では、1年間のステロイド使用量が、ベンリスタを使っていなかったグループでは平均916.3mgであったのに対して、ベンリスタを使っていたグループでは平均513.2mgと約半分ですんでいます。

ベンリスタの全身性エリテマトーデスの治療における意義

全身性エリテマトーデスは基本的に慢性の疾患であり、病状が落ち着いたとしても、再燃してしまうことがあり、活動性をコントロールすることが重要です。病気の活動性をできる限り低い状態で維持できるように、主治医と相談しながら治療を進めていきましょう。

プラケニルの稿でもご紹介していますが、全身性エリテマトーデスに関してT2T(どのように治療目標を設定して治療を行うか)のガイドラインが2014年にヨーロッパリウマチ協会から出されています。このガイドラインにあわせて、ベンリスタを使用する意義をみてみましょう。あくまで私の個人的な訳で、正式なものではありません。

基本的な概念は以下の4つです。

  1. 「全身性エリテマトーデスの診療は、患者と医療関係者との合意のもとで行われなければならない」
    このホームページを作成しているのも、この一助となるためです。
  2. 「全身性エリテマトーデスの治療は、長期的な生存、臓器障害の予防、健康面において最大限に良好な生活を目指すものでなければならない。このためには、病気の勢いをコントロールし、障害を最小限のものに食い止め、薬の副作用も最小限のものにとどめる必要がある」
    ベンリスタは比較的に副作用が少ない印象があります。長期的にも7年間に及ぶ安全性と効果の持続のデータがあります。
  3. 「全身性エリテマトーデスの診療は、病気のいろいろな側面、症候を考慮することが必要であり、このためには様々な部門の協力が必要なことがある」
  4. 「全身性エリテマトーデスの患者さんは、定期的な診察を受ける必要があり、長期間にわたって状態の把握、治療の調整をしていく必要がある」

さらに推奨文としては以下の11項目があります。

  1. 「全身性エリテマトーデスの治療目標は、全身症状と臓器病変を寛解状態にすることにある。それが困難な場合は、疾患活動性スコアあるいは臓器障害スコアを最小限のものとすることを目標とする」 ベンリスタは、SLEDAIという疾患活動性スコアを用いて有効性が確認されています。
  2. 「再燃を防ぐ、とくに重篤な再燃を防ぐことは、全身性エリテマトーデスの診療では現実的に希求すべき目標であり、治療目標として設定しなければならない」
    ベンリスタで治療したグループは、再燃がより少なく、再燃までの期間を延長することができています。
  3. 「症候として安定しているのであれば、免疫学的検査で異常値がでていたとしても、それだけで治療を強化することは推奨しない」
    免疫学的検査で異常値がでているからといって、ベンリスタを使用するわけではありません。しかし、免疫学的検査で異常値のでている患者さんでは、ベンリスタは効果を発揮しやすいことがわかっています。
  4. 「ひとたび障害が生じると、それは更なる障害や生命の危険につながるので、障害が生じないようにすることが、全身性エリテマトーデスの治療目標として重要である」
    ここでいう障害とは、全身性エリテマトーデスの病態そのものからおこる障害、併発症からおこる障害、治療薬の副作用によっておきる障害、いずれのものも意味します。
    全身性エリテマトーデスの活動性ではなく、患者さんの障害の程度を評価する指標に、SLICCダメージ・インデックスというスコアがあります。このスコアを使って、ベンリスタ開始から5-6年経過した患者さんの、障害の進行度をみた報告があります(Lupus 2016;25:699)。ベンリスタの開始時点でのスコアの平均は9.2でした。5-6年経過した後でも、平均でスコア0.2の進行にとどまり、まったく進行しなかった患者さんが、85.1%に上りました。ベンリスタの効果と、比較的に良好な安全性が障害の進行の防止に寄与したと考えられます。
  5. 「病気の活動性をコントロールし、障害が生じないようにするだけではなく、健康面での生活の質に影響する因子、たとえば疲労、痛み、抑うつにも対処すべきである」
    いわゆるPROの改善です。ベンリスタがPROを改善させることは、すでに述べました。
  6. 「腎臓の病変に早く気づき、早く治療することが、全身性エリテマトーデスの患者さんには強く推奨される」
    ベンリスタは腎臓の病変にも有効と考えられますが、現時点ではまだ証拠が不足です。今後の使用経験のなかで検証されていくものと考えられます。
  7. 「全身性エリテマトーデスによる腎炎は、寛解導入のための初期治療に続いて、少なくとも3年間にわたって免疫抑制剤による治療を行うことを、将来の状態を最善化するために推奨する」
    ベンリスタの適切な使用期間や、ベンリスタの中止後に再燃しないようにできる条件については、今後の検討が必要です。
  8. 「安定期の治療としては、病気の勢いをコントロールするために必要なステロイド剤を最小限にすることが推奨される。可能であれば、ステロイド剤を中止することが望ましい」
    ステロイド剤は、全身性エリテマトーデスの治療の根幹ともいうべき薬剤で、その意義は明らかです。しかしながら、一方では、筋力を落とす、骨を弱くする、心血管に動脈硬化などで悪影響を与える、白内障や緑内障、コレステロール値を増加させる、血圧を上昇させるなど、負の影響も明らかです。
    ベンリスタのステロイド減量効果については、すでに述べました。
  9. 「抗リン脂質抗体症候群に関連した合併症の予防と治療をすることも、全身性エリテマトーデスの治療目標となる。抗リン脂質抗体症候群の治療に関する指針は、原発性の(全身性エリテマトーデスを合併していない)場合と同様である」
    抗リン脂質抗体症候群というのは、血栓といわれる血の固まりができやすい状態になる病気です。血管(動脈にも静脈にも)に血栓ができ、詰まると、臓器への血流がいかなくなりますので維持や機能の発揮に必要なエネルギーが確保できなくなりますので、梗塞という臓器の破壊が起きてしまいます。脳梗塞がその代表的なものです。
    また、抗リン脂質抗体症候群は流産のリスクが高まることでも知られています。
    全身性エリテマトーデスの患者さんの16%くらいに抗リン脂質抗体症候群が合併するといわれています。
    現時点では、ベンリスタには、抗リン脂質抗体症候群の治療の保険適応はありません。
  10. 「他の治療手段を使用していても、いなくても、抗マラリア薬を使用することを真摯に考慮すべきである」
    ベンリスタは抗マラリア薬(プラケニル)と併用することができます。
  11. 「治療に際しては、免疫抑制療法だけではなく、臓器などの障害に応じた治療手段もあわせて導入すべきである」
    血管を守るための降圧薬や高脂血症の薬、血栓症の予防/治療のための抗血小板薬/抗凝固薬、感染症のリスクを減らすための予防接種、骨を守るための薬などのことです。あわせて、このガイドラインでは民間療法や代替療法を利用することは意味がないとしています。

Q&A:ベンリスタに関する一般的な質問

Q
「日常生活で気を付けることはありますか?」
A

ベンリスタの使用中は、ウイルスや細菌から身を守る力が弱くなる可能性があるので、感染症にかからないよう、十分に注意しましょう。 生ワクチンの接種は行わないでください(日本人では成人で生ワクチンを使用することは稀ですが、水痘ワクチンが生ワクチンにあたります)。

Q
「自己注射を忘れたときはどうすればよいですか?」
A

忘れたことに気づいたら、主治医に連絡のうえ、できるだけ速やかに注射をしてください。その後の注射は、ベンリスタの血中濃度を十分に保つという観点からは、最初に決めたスケジュールに従うのが適当だと考えられますが、主治医の判断によっては、うった日から新たに1週間間隔で注射を行います。

Q
「旅行に行く場合、自己注射はどのようにすればよいですか?」
A

主治医に相談してください。海外旅行の場合、航空会社への説明文を用意して、ベンリスタを持参していただくことも可能ではあります。しかし、温度管理の問題など、いろいろとトラブルも予想されますので、それほど長期でなければ、旅行の前後にうつほうが適当と思われます。

Q
「SLEは治療期間が長く医療費が心配ですが、助成制度はありますか?」
A

SLEは難病助成制度の「指定難病」の一つです。所得条件に応じた医療費助成が受けられますので、詳しくは各都道府県の窓口にお問い合わせください。 2017年12月時点の状況を簡単に述べますと、1か月の自己負担の上限は、年収370万円以下で1万円まで、810万円以下で2万円まで、それ以上の収入がある場合は3万円までとなります。 これが、自己負担が1万円を超える月が年間6回以上(ベンリスタを使って半年たてば、このようになります)となりますと、それぞれの収入で、5千円、1万円、2万円までとなります。

おわりに

いかがでしょうか。ベンリスタのイメージがつかめてきたでしょうか。われわれ医療関係者は、患者さんと一緒に、このベンリスタという新しい治療薬を安全に、そして効果的に使っていくことを考えています。全身性エリテマトーデスに罹患しているすべての患者さんの将来がよりよいものになることを願って、この稿を閉じさせていただきます。

独立行政法人国立病院機構 宇多野病院
統括診療部長 柳田 英寿