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神経内科

重症筋無力症

どんな病気ですか?

脊髄前角に位置する運動ニューロンの神経終末とその支配筋線維とで形成される神経筋接合部の筋線維膜に存在するアセチルコリン受容体に対する自己抗体が罹患筋の脱力、特に易疲労性の原因となる自己免疫性神経疾患である。

有病率は人口10万人あたり5.1人で女性に多い。発症年齢は10歳以下の小児と女性では30~40歳代、男性では40~50歳代に発症のピークがある。

胸腺異常と密接な関連があり、約8割の患者で何らかの胸腺異常があり、胸腺腫が20~30%の症例に見られる。アセチルコリン受容体に対する抗体が病因との関連でよく知られているが、この抗アセチルコリン受容体抗体価そのものは症状の重症度と必ずしも相関しない。

しかし、臨床上経験的には同じ患者さんにおいては抗体価の増減と症状の悪化・改善とは並行することが多く、特にクリーゼ時期には抗体価が急峻に上昇する。自己抗体には多様性が知られており、アセチルコリン受容体におけるアセチルコリンとの結合を阻害する抗体や受容体の崩壊を促進する抗体や受容体以外の筋線維の構成成分に対する抗体などの存在が知られている。これらの自己抗体はリンパ球のB細胞で作られるが、ヘルパーT細胞が抗体産生の上で重要な働きをしている。

また重症筋無力症と胸腺との関連が強く、原因不明ではあるが胸腺内の筋様細胞がアセチルコリン受容体を持っていて、何らかの原因(ウイルス感染?)が引き金となってこの受容体に対する自己抗体が作られ、その抗体が全身の骨格筋の神経筋接合部に存在するアセチルコリン受容体を攻撃すると考えられている。

どのような症状がみられますか?

眼瞼下垂と複視(物が二重に見える)の眼症状で発症することが多く、病期を通してこの眼症状はほとんど必発の症状である。眼症状で発症した場合は、患者さんはまず眼科を訪れ、重症筋無力症の診断がつけられて神経内科に紹介されることがある。

長年にわたってこの眼症状だけしか見られない眼筋型MGと呼ばれる病型もあるが、多くは呼吸・嚥下筋を含む全身の骨格筋の筋脱力症状(あるいは易疲労性)を伴い、これらを全身型MGと呼ぶ。さらに全身型には呼吸症状(呼吸困難)や球症状(嚥下・構音障害)を伴い生命を危機に曝す(呼吸筋麻痺を伴う場合をクリーゼと呼ぶ)重症型がある。

眼症状を含めて、一般の筋脱力とは異なり、持続運動が困難で休息による脱力の回復が特徴で、一日のうちで症状の変動が見られる。

診断のための検査は?

診察では、特徴ある症状の問診とまばたきをできるだけこらえた上方視を行い、眼瞼下垂が出現するかどうかを見る。この方法で眼瞼下垂が出現すれば重症筋無力症と考えて間違いはないが、神経症や眼瞼痙攣による閉眼との区別がいるが、閉眼の場合は上眼瞼と共に下眼瞼が上方に動くことで区別される(重症筋無力症では上眼瞼のみが下がる)。

四肢筋では握力を連続して測定すると回数を重ねると握力の低下が著しくなったり、上肢挙上や頭部を持ち上げる持続時間が短いことからも易疲労性を見つけられる。 確定診断には、テンシロン試験として短時間持続の抗コリンエステラーゼ剤の静脈内投与でこれらの眼症状や易疲労性が改善することが確認されれば臨床的に重症筋無力症と診断される。

補助診断として電気生理学的検査で易疲労性が証明でき、血中に抗アセチルコリン受容体抗体が検出されれば確定する。この抗体は特異性に高く、他の疾患で陽性になることはほとんどなく、また80%を超える患者さんに証明できるが(眼筋型は抗体陰性例が多い)、抗体陰性の患者さんもあることから、臨床および電気生理学検査も診断上重要である。

近年、抗体陰性の患者さんの約半数近くに別の抗体(抗マスク抗体)が見出され、病因との関連で注目されている。 甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症)を合併する場合があり、この場合は甲状腺治療が優先されるために甲状腺機能および甲状腺疾患の合併の有無の検査を行なう。

胸腺腫を合併する場合は胸腺腫摘出および拡大胸腺摘出術の適応となるため、CT等で胸腺腫の有無の検索を進める。

治療方法について教えてください

治療法は最近刊行された「重症筋無力症治療ガイドライン」に詳細に記載されています。

抗コリンエステラーゼ剤

抗コリンエステラーゼ剤(メスチノンやマイテラーゼ)は、対症療法として重症筋無力症患者に投与される。神経終末から放出されたアセチルコリンの分解を抑え減少した受容体に結合し易くさせることで易疲労の症状改善を計る。

早期拡大胸腺(腫)摘出術

画像で胸腺腫が明らかでなくても手術で摘出した肥大胸腺に小さな胸腺腫が埋もれて発見されることも時に見られ、小児も含めて全身型では早期(発症1年以内に!)拡大胸腺(腫)摘出術が薦められている。

これまでの手術後の症状の推移の検討から早期に拡大胸腺(腫)摘出を行った方が、予後が良好であることが明らかにされているからである。

眼筋型(特に抗体陰性例)はステロイド剤で改善することが知られており、胸腺摘出術に踏み切れない場合が多い。しかし、近年眼筋型も全身型の軽症例であるとの考えや、高齢者では胸腺腫を合併する頻度が若年より高いことから高齢者においても拡大胸腺(腫)摘出術が行われることがある。

クリーゼの治療

クリーゼを来たす重症全身型では、呼吸管理が大切で血液ガス検査結果(特にCO2分圧の上昇)で呼吸不全状態に陥っていれば、気管切開あるいは気管挿管を行って人工呼吸器管理とする。

この場合は抗コリンエステラーゼ剤が無効あるいはほとんど効かず使用した場合には唾液や気管内分泌物が増加して呼吸管理が難しくなるため使用しない。同時に嚥下困難があるため静脈あるいはチューブ栄養管理を並行して行う場合が多い。

免疫抑制剤

ステロイド剤はMGの免疫治療において、一番良く使われまたその効果が評価されている薬物であるが、副作用の問題も大きい。ステロイド剤に対する禁忌の疾患を合併していなければ、中等~重症のMG症例や、軽症ではあるが複視や眼瞼下垂等の症状で日常生活や職場復帰に困難を感じている症例で投与される事が多い。免疫抑制剤のうちイムランは特に胸腺腫症例で効果があるとされ、妊娠予定のある若年女性や悪性腫瘍の既往のある患者を除き用いられている。一般的にはその効果発現には2-3ヶ月を要するので、副作用に注意しながら気長に使う必要がある。エンドキサンも使用されることにある免疫抑制剤の一つである。

タクロリムスは主にT細胞依存性の免疫反応を抑制するとされ、臓器移植拒絶反応を抑える目的で使用され移植医療において良好な成績を納めている薬剤であるが、MG治療薬として免疫抑制剤の中で唯一保険適応がされた薬物である。イムランに比べてその効果発現が早く見られる特徴があるが、妊娠を希望する場合は胎児への影響を考慮して使用しない。

血漿交換療法

血漿交換療法は血清中の抗体を除去する事で、一時的な症状の軽快をもたらす療法であり、保険適応がありその効果発現は数日以内の早期に見られるが、多くは1~2ヶ月でもとのレベルに戻ってしまう。免役吸着法も血中の抗体を除去し、臨床症状の改善をもたらし、この免役吸着法はアルブミンの補充の必要がなく、血漿交換に比べて重篤な副作用も少ない利点がある。

免疫グロブリン大量療法

免疫グロブリン大量療法は、血漿交換療法と同様に一時的であり、クリーゼ等の急性増悪期を乗り切ったり、他の療法では治療効果が期待できなかった場合に行われる療法と考えられているがわが国では保険適応はされていない。

病気は治りますか?

以上の治療法を組み合わせることで70%の患者さんは軽快あるいは寛解(症状が改善して服薬を必要としない状態)が得られるが、30%の患者さんは社会生活に困難を感じる。

早期拡大胸腺摘出術の採用で、重症とされたこの疾患の予後が改善され、更にステロイド剤等の免疫抑制療法が予後を良好にしている。しかしその反面、ステロイド剤の副作用に苦しむ患者さんも多く、近年認可されたタクロリムスの効果が期待されている。

参考になる図書や文献は?

難病の診断と治療指針 1 、厚生省保健医療局疾病対策課監修、難病医学研究財団企画委員会編集、六法出版社、1997年発行 小西哲郎、Evidence-based medicine (EBM)の重症筋無力症治療への応用。
神経治療学、16巻、p61-67、1999 神経免疫疾患治療ガイドライン「重症筋無力症」、神経免疫疾患治療ガイドライン委員会、協和企画、2004

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