国立病院機構|宇多野病院|関西脳神経筋センター

病気について知りたい > 筋萎縮性側索硬化症 

患者さまとご家族の方へ

神経内科

筋萎縮性側索硬化症

どんな病気ですか?

「amyotrophic lateral sclerosis」の意味は、「myo」は筋肉を表し、「atrophy」は「萎縮」を意味し、「amyotrophic」は脊髄前角細胞(または下位運動ニューロン)が障害されその支配を受けていた筋肉が萎縮する状態を表す。

「lateral」は解剖学的に脊髄の中央外側の神経線維が縦走する「側索(錐体路とも言う)」の場所を示し、「sclerosis」とは日本語で「硬化」を意味し、この病気で亡くなられた患者さんの脊髄を調べると、この「lateral(側索)」の部分が病理学的に瘢痕化して硬くなっていることから「lateral sclerosis」と名づけられた。

この脊髄側索は大脳の運動野にその細胞体を持つ上位運動ニューロンの軸索が脊髄の中を通っている場所であり、ALSにおいてはこの上位運動ニューロンが障害され側索が瘢痕化する。すなわちALSでは、上位と下位の運動ニューロンが侵される病気であり「運動ニューロン疾患」とも呼ばれている。この病気は9割以上が孤発性であるが5~10%が遺伝性を示し、特に近年遺伝性ALSの約2割にCu/Zn superoxide disumutase(SOD-1)の遺伝子異常を認める。この酵素を欠損する動物モデルでは運動ニューロン死がみられないことから、SOD-1の機能障害による酸化ストレス障害に加え、異常なSOD-1蛋白の細胞内凝集が運動ニューロン障害に関与すると思われる。

またニューロフィラメントの遺伝子異常に伴うALS例やALS患者の細胞内や軸索中に異常なニューロフィラメントの封入体が存在することから、ALSにおける運動ニューロン障害には軸索輸送の異常の関与も考えられている。 有病率は10万人あたり2~6人とされ、発病率は10万人あたり1~2人とされている。

どのような症状が特徴ですか?

上位および下位運動ニューロンの障害に由来する症状が見られ、感覚神経や自律神経が侵されない特徴を持つ。

主な症状を
①球症状と呼吸筋麻痺
②上位ニューロン徴候(錐体路徴候)
③下位ニューロン徴候(前角細胞徴候)
④ALSでは見られない徴候の、4つに分けてみるのがわかりやすい。

①~③の症状を持つ神経変性疾患がALSと一般に呼ばれているが、①のうち球症状のみの症状であればprogressive bulbar palsy(PBP)であり、②の上位ニューロンのみの症状であればprimary lateral sclerosis(PLS)と呼ぶ。

臨床症状から以下の3つに分類されている。
①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮や筋力低下が主体で、下肢は痙性を示す。
②球型:構音・嚥下障害の球症状を主体とする。
③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期から見られる。

球症状と呼吸筋麻痺

球症状である嚥下・構音障害と呼吸筋麻痺症状は、患者さんの生命予後と直結する臨床的に最も重要な症状です。

嚥下障害には食材の工夫や経口摂取が不可能になれば、鼻チューブや胃瘻増設を行って水分・栄養補給が必要となる。呼吸困難に対しては、気管切開や人工呼吸器使用等の処置が必要となる。

上位運動ニューロン徴候(錐体路徴候)

大脳の運動野に細胞体があるBetz細胞は、その軸索が脊髄では側索を通り、このBetz細胞とその神経突起の軸索が上位ニューロンであり、この上位ニューロンが障害をうけると、脱力と痙性が見られる。

下位運動ニューロン徴候(前角細胞徴候)

脊髄前角に大型の細胞体を持ち、その軸索が前根として脊髄がら出て、感覚神経と合わさって末梢神経を形成、最終的に神経筋接合部を形成して筋線維の興奮を支配する神経が下位運動ニューロンと呼ばれる。

この神経が障害されると支配筋の興奮が失われ、脱力と脱神経支配の結果、筋線維束性攣縮が出現する。この攣縮は舌筋において良く観察され、四肢筋では皮膚の表面から筋の一部が不規則にピクピク動き、患者さん自身がこの筋のピクツキを自覚する場合もある。

ALSでは見られない徴候

よく知られているALSでは見られない徴候は、「褥瘡ができない、排尿障害が見られない、眼球運動が侵されない」の3つである。「褥瘡ができないと排尿障害が見られない」は共にALSでは運動神経障害だけで自律神経系が侵されないことと関係する。

発語や書字によるコミュニケーションができない患者さんは、眼球運動を利用して文字盤を用いてコミュニケーションをとることができる。

診断にはどのような検査がありますか?

球症状、呼吸筋麻痺や運動ニューロン徴候を示す種々な病気との区別が重要です。これらの症状を来たしうる他の病気を除外してALSと診断がつけられます。そのためMRI、CT等の画像診断、筋電図検査、他の病気との鑑別に必要であれば髄液検査が通常の検査として外来や入院時に行われています。

筋電図検査では特徴的な巨大スパイクと呼ばれる大きな運動神経単位(4~5mV以上の振幅で、2~3相の単純な波形)と脱神経所見の安静時における線維自発電位(fibrillation potential)や陽性鋭波(positive sharp wave)や線維束自発電位(fasciculation potential)が見られる。 しかし、これらの検査所見はALSを疑わせる検査や徴候でありそれらの所見があればALSの診断が確定されるものではない。最終的なALSの確定診断は他の考えうる病気が除外された上で、なされるのが通常である。

治療法は?

現在唯一保健診療で認められている薬物は抗グルタミン酸作用を有するリルゾール(リルテック)だけです。この薬剤はグルタミン酸が神経毒性を有し、リルゾールが神経系におけるグルタミン酸放出の抑制とグルタミン酸に対する神経保護作用の両方を持っていることから治療薬として使われています。

病気の進行やケアについて教えてください

ケアと処置(栄養、呼吸)の方法の選択、特に呼吸器を使用するかどうかで生命予後は大きく変わります。呼吸器管理を行わない、通常の自然経過では球症状が出現して2~3年の命といわれていますが、看護や医療の内容で随分影響され明確な余命ははっきりしませんが、一般的には発症してから3~5年の寿命と言われています。

しかし、球症状出現後呼吸器を着けず、食事もとろみをつける等の工夫をして末期まで経口摂取を続け、10年近く生存された患者さんもおられましたが、呼吸器をつけずに5年以上の長期にわたって生存される患者さんは例外的です。以下に患者さんのQOLに大きな影響を持つコミュニケーション、嚥下困難、呼吸困難について述べます。

コミュニケーション

構音障害が高度となると発語が聞き取れなくなります。また呼吸困難から気管切開処置が施されると発語ができなくなります。残存する上肢機能で筆記によるコミュニケーションが可能であれば良いが、多くは構音障害が高度になる病期には四肢の運動機能も高度に侵されていることが多いが、眼球運動が保たれているのが普通です。

対面式の文字盤を目で追いかける方法は患者さんや検者が慣れれば実用的で、広く用いられている。残された関節運動をオン・オフのスイッチとして、パソコンの応用による文章の作成や、ナースコールとして使用している。

呼吸困難から気管切開を行ない、気管カニューレが装着されても「スピーチカニューレ」が使用できる場合には発声が可能である。呼吸器が必要な場合でも「スピーキングバルブ」をつけることで、発声が可能となりますが窒息状態に陥る危険があるため、家族や介護人が傍にいる時だけにします。

嚥下困難

嚥下障害には、食材の工夫でできるだけ経口食事摂取を行うが、経口摂取だけでは水分補給や栄養面で不十分であれば、経管栄養(胃チューブや胃瘻増設)あるいはIVH(中心静脈栄養)が行われる。特に、誤嚥性肺炎を契機に経管栄養やIVHに移行する場合が多い。

呼吸困難

去痰困難だけであれば気管切開による吸引が有効であるが、同時に呼吸筋力低下による呼吸困難を伴っているため、切開口から酸素吸入の併用を行う場合が多い。

自発呼吸で呼吸困難が解消されない、あるいは動脈血ガス分析で低酸素に加え二酸化炭素が蓄積している場合は呼吸器使用が適応となる。人工呼吸器には挿管や気管切開を行わず鼻マスクやマウスピース等を用いて行う陽圧人工呼吸器(noninvasive positive pressure ventilation: NPPV)と、挿管や気管切開を行って確実に空気を送り込む呼吸器(tracheal positive pressure ventilation: TPPV)の2つの方法がある。

これらの嚥下・呼吸困難に対する処置をどうするかには、事前に本人あるいは家族とのインフォームド・コンセントが必要である。

本人ご家族への病名告知はどうしますか?

ALSの病名告知と人工呼吸器使用を含む病気の説明のガイドラインが国立療養所等神経内科協議会から提案されている。そのガイドラインによれば原則として患者本人に病名告知を行なうこと、すなわち家族に最初に病気の説明を行なうのではなく家族と同時に本人に説明あるいは本人の了解をとってから家族に説明することが提案されている。

人工呼吸器の装着は延命効果以外に進行する病態、装着した呼吸器からの離脱が困難なこと等の情報提供を行なう。また呼吸器を装着しない緩和医療の選択もありうる。

在宅医療をサポートするための、地域医療機関、かかりつけ医、保健所等の行政機関、訪問看護ステーション、在宅看護支援センター等の連携、入院療養が必要な患者さんにおいてはALS療養受け入れ可能な医療機関との連携も重要となる。身体障害者手帳や福祉制度、さらには患者会についての情報提供の必要性も指摘している。

ALSに限らないが、とかく患者本人・家族に大きな負担を強いる難病医療・介護を社会全体で受け止める制度の充実を含めたサポートシステムの確立が必要である。

参考になる図書や文献は?

ALSマニュアルーALSと共に生きるー:アメリカALS協会編者(遠藤明訳者)。株式会社日本メディカルセンター。平成9年12月発行。
小西哲郎:筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者のコミュニケーションについて。難病と在宅ケア 6: 33-37、 2000。
岩下宏 等:国立療養所における筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療のガイドライン。医療 54:584-586、2000。
日本神経学会治療ガイドライン「ALS治療ガイドライン」2002、日本神経学会。

ページトップへ