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患者さまとご家族の方へ

神経内科

関節の具合はどうですか?-関節リウマチの診断と治療戦略-

平成28年10月8日の市民公開講座の内容をご紹介したいと思います。
今回の講演は、関節リウマチとその関連疾患をテーマにしたものです。タイトルは、「関節の具合はどうですか?-関節リウマチの診断と治療戦略-」というもので、二部構成になっています。
当日の雰囲気が少しでも伝わりやすくなるように、話し言葉で記載していきます。前回もそうでしたが、著作権の関係のためにスライドそのものを掲載できないことをお許しください。もちろん、内容はスライドなしでも理解可能なものになっています。

「始めに」
リウマチ膠原病内科の診療部長の柳田です。
本日は、当院の市民公開講座にご出席いただき、誠にありがとうございます。本日はお足元の悪い中、とご挨拶するつもりでしたが、なんとかもっているようです。本日ご出席の皆さんの日頃の心がけがよいためではないかと思います。
当科では、私を含め、3名の医師で関節リウマチなどの膠原病に対する診療を行っています。
そのうちの一人の、女性の医師、鮎澤先生は今年(平成28年)の2月にお子さんを出産されました。現在は育児休業中ですが、来年(平成29年)の4月には復帰され、元通り、診療に入られます。
さて、本日は膠原病の中でも最も患者数の多い、関節リウマチについてお話しします。
本日の話は、2部構成になっています。
前半では、関節リウマチはどんな病気であるか、診断をどのようにしていくか、特に、どんな病気と間違われやすいかということを中心にお話しします。
後半では、関節リウマチの治療に関して、最新のトピックを中心にお話しします。
せっかく来ていただいたみなさんのために、よそではなかなか聞けないことをお話しようと思って、かなりの時間をかけて準備いたしました。
そのために力が入り過ぎて、盛り沢山に過ぎる内容になってしまいました。
全部理解していただく必要はありません。みなさんが全部理解できるようであれば、我々医者の出番はありません。
理解しにくい点については、質問の時間も用意しています。ご遠慮なく、ご質問ください。
本日の講演が、ここにいらっしゃる全ての皆様にとってお役にたつことを、心から願っています。


第1部 「関節リウマチはどんな症状の病気?」

それでは、始めさせていただきます。
関節リウマチというのは、どのような症状の病気なのでしょうか?

「関節」という名前の通り、全身の関節に痛みや腫れといった症状がでて、時間の経過とともに関節を壊していく病気です。全身の関節といいましたが、手足の関節に発症することが多く、腰や背骨の関節への影響は少ないのが特徴です。例外として、頸椎(首)には 病変が起こることがあります。

関節リウマチは、名前の通りに関節が中心の病気ですが、関節以外の臓器にも影響することがあります。そうはいっても、幸いなことに、治療しなければならないような病変が起こるのは、そう頻度の多いものではありません。
重要なのは呼吸器、肺の病気です。間質性肺炎という肺炎が代表的です。間質性肺炎になりますと、肺の壁の部分に炎症(後で説明します)を起こして、体の中に酸素が入りにくくなり、息切れや呼吸困難といった症状を招いてしまいます。痰を伴わない咳(乾性咳)に注意しながら、定期的にレントゲンなどで評価する必要があります。


「関節の炎症とは」

関節リウマチの患者さんの関節ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
一般的には、関節の滑膜が炎症を起こしていると説明されます。炎症というのは、症状としては、「赤み」、「腫れ」、「痛み」、「熱」として現れます。
関節の内側を覆っている滑膜が炎症を起こして、細胞増殖を起こします。増殖した滑膜細胞は他の細胞とともにパンヌスといわれる細胞集団を形成して、軟骨や骨に入り込み、じわじわと壊していきます。しかし、これではなんだかよくわからないと思いますので、もう少しイメージに訴えて説明したいと思います。

これは膝関節です。この赤いのが、増殖した滑膜細胞の集団です。増殖した滑膜は他の細胞とともに、パンヌスという集団を作って、ここに示しましたように、軟骨や骨に食い入るように入っていって、破壊していきます。これにともなう炎症反応によって、関節には液体が溜まって腫れてきますし、強い痛みを感じるようになります。

滑膜やパンヌスでは、さまざまの細胞が活性化して、サイトカインという物質が放出されています。サイトカインは細胞から細胞に受け渡され、炎症反応をさらに増幅させていきます。覚える必要はありませんが、重要な細胞として、滑膜細胞、T細胞(Tリンパ球)、B細胞(Bリンパ球)、破骨細胞があります。重要なサイトカインとしては、TNF、IL-6があります。


「関節リウマチにおいて、関節はどのようにして壊されていくか」

それでは、炎症反応はどのようにして関節を破壊していくのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
まずは、軟骨を壊す重要な要因であるMMP-3です。これは関節の滑膜の顕微鏡写真ですが、ここで表層全体にわたって黒く染められているのがMMP-3です。表層の滑膜細胞が盛んにMMP-3を作っているのがおわかりになると思います。
MMPは軟骨などを壊す分解酵素で、25種類あります。MMP-3はその代表的なものです。
普段の診療の場でも血液検査でMMP-3は定期的に測定されており、リウマチの炎症の強さを評価する指標とされます。
ただし、注意すべき点としては、膝の変形性関節症やステロイドを使っているときも、MMP-3の値は増加することがあります。このような場合は、MMP-3値が高値でも、必ずしも炎症の勢いが強いというわけではありません。

ちなみに、関節破壊とは少し話がずれますが、診療の場でよく測定する検査項目として、CRPのことに触れておきたいと思います。
CRPは炎症の時に、サイトカインであるIL-6の影響を受けて、肝臓で作られる物質です。関節局所で作られるわけではありません。ですから、関節破壊とは直接の関係はありません。IL-6を抑えるアクテムラで治療しているときは、関節の炎症が残っていても、肝臓での産生が抑えられますので、CRPが低値であることがあります。
また、遺伝子のタイプによって、CRPの上がりやすい人と上がりにくい人があります。だいたい3倍くらいの値の差があり、正常値だからといって、関節の炎症がないとは限りません。

さて、再び炎症反応が関節を壊していく話にもどります。滑膜細胞が増えていくと、他の細胞とともにパンヌスといわれる細胞集団をつくり、骨や軟骨へと侵入していきます。ここで赤く染まっているのが骨ですが、細胞の集団がその中へ入り込んでいます。
この滑膜細胞などの細胞集団、パンヌスの最前線では、破骨細胞という細胞が活発に活動し、骨を壊しています。この、赤く染められた骨に密着している細胞が、破骨細胞です。

このように、炎症反応によって惹き起こされるMMP-3の分泌や、滑膜細胞などの細胞集団パンヌス、破骨細胞の活性化によって、関節の破壊が進行し、関節の変形に至り、様々の機能障害を起こしていきます。

関節の機能障害は、家庭生活・社会生活の障害につながっていきます。この図は、患者さんの就業率をみたものですが、1年、2年と日がたつにつれて仕事を失う人の割合が増えていくのがわかります。これは1999年(生物学的製剤導入前の時代です)の報告ですが、1年で5人に1人が離職し、3年で3人に1人が離職してしまっています。


「関節の炎症の強さをどのように評価するか」

それでは、これらの障害のもととなる関節の炎症の強さを、どのように評価していったらよいのでしょうか。いちいち顕微鏡でみるわけにはいきません。

日常の臨床では、関節の炎症の勢いを、4種類の指標で評価します。

①血液検査:血清学的活動性
 CRPと血沈(赤沈)が代表的です。補助として、MMP-3が用いられます。
②患者さんの自己評価(ヴィジュアル・アナログスケール:VAS)
 その患者さんが最悪と考える状態を100として、通常のなんでもない状態を0とした場合に、現在の状態がいくつくらいに当たるかを評価します。最悪と考える状態を10とする場合もあります。
③圧痛関節数
 おさえると痛みを感じる関節の数です。医師(または専門看護師)が関節をおさえてみて、評価します。
④腫脹関節数
 腫れている関節の数です。医師(または専門看護師)が関節をおさえてみて、評価します。炎症で腫れている関節は水がたまっているので、触ってみると、ぷくぷくした感触になります。
 これらの中で、③④の関節のチェックが重要とされます。なぜ関節チェックが重要なのでしょうか。また、なぜ4種類の指標を使うのでしょうか。
 具体例をあげて、ご説明しようと思います。


「炎症の強さを評価するうえで大事な、関節チェック」

当科に紹介で受診された77歳の女性の患者さんです。
紹介状をみてみますと、「20XX年より当院にて関節リウマチで定期加療中です」「下記処方の内服薬にて炎症コントロールはまずまずといったところです」となっていました。
処方は、ハイペン(消炎鎮痛薬)200㎎/日、プレドニン(ステロイド剤)10㎎/日、メトトレキサート(抗リウマチ薬)12㎎/週でした

ところが、実際に診察をしてみますと、4種類の指標のうち、1種類しか落ち着いていませんでした。
「患者さんの自己評価」は50/100もあります。
「圧痛関節数」は24か所ですし、「腫脹関節数」は21か所もありました。
ただし、「血液検査:血清学的活動性」だけは、CRP0.1㎎/dl、赤沈1時間値10㎜と落ち着いていました(これはステロイドの見かけ上の効果だと思われます)。
どうやら、血液検査のみに注目して、診療がなされていたようです。

このように、炎症反応が高いままで経過してしまった結果は、どうだったでしょうか。関節破壊の進行の程度をレントゲンでみてみました。これは手のレントゲンですが、骨と骨との間にあるはずの軟骨が一部ではほとんどなくなっており、破壊の進行度でいうと4段階のうちの悪い方の3段階目になってしまっています。

足の破壊はもっとひどくて、素人の人がみてもわかりますように、完全に足の指の関節が壊れてしまい、骨と骨がずれてしまっています。4段階のうちの最悪の4段階目です。

この患者さんは、すぐに生物学的製剤(TNF阻害薬のシンポニー)の導入を行いました。1回の投与だけでも、次回受診時には目がきらきらと元気になっていらっしゃいました。痛みも3分の1以下になっていました。足の指に関しては、注射だけではもとにもどすことはできませんので、全体の関節炎症が安定したところで足指形成術を行いましょうと、整形外科の先生が計画しています。

このような事態を防ぐために、日常の診療では、さきほどの4種類の指標をもとに、炎症の程度を4段階に分けて、治療の調整のよりどころとしています。
炎症が強い方から、①高疾患活動性、②中等度疾患活動性、③低疾患活動性、④寛解、という4段階です。寛解が治療目標ですが、低疾患活動性までは容認されます。
治療目標につきましては、後半でもっと詳しくお話しします。


「関節リウマチの診断は除外診断・関節リウマチと紛らわしい病態」

さて、障害をおこさないようにするためには、速やかに関節リウマチと診断して、速やかに治療に入ることが重要です。
関節リウマチの診断は、実は、他の病気を否定する(除外診断)ことから始まります。いろいろな関節の病気を否定していって、残ったものを関節リウマチとするわけです。

関節症状を起こす疾患は多岐にわたります。これは日本リウマチ学会のホームページからとったものですが、非常にたくさんあります。ポイントとしては、関節リウマチには少ない38度超の発熱や、顔や手の所見が手掛かりになります。
ややこしいことに、これらの疾患はお互いに合併することもあります。

とても全部は触れられませんが、代表的な疾患を少しご紹介しましょう。
シェーグレン症候群は、関節だけではなく、耳下腺や唾液腺、眼の涙腺を障害する病気です。涙や唾液が出にくいという乾燥症状で気づかれます。血液検査では、γグロブリン高値、抗SS-A抗体陽性が代表的所見です。

多発性筋炎は、手足の筋肉に炎症を起こす病気ですが、関節炎も起こします。メカニック(機械工・整備工)ハンドという、かさかさと角質化した手指になることがあります。血液検査で、筋肉の中に含まれる酵素CPK(CK)が高値になることで気づかれます。

皮膚筋炎も、手足の筋肉や関節に炎症を起こす病気ですが、皮膚症状が特徴的です。まぶたのヘリオトロープ疹、手指の関節の赤い発疹であるゴットロン徴候、ゴットロン丘疹が代表的な皮膚症状です。皮膚筋炎の場合は、間質性肺炎特有の、痰を伴わない咳で気づかれることがあります。

強皮症は、手指の皮膚が硬くなる病気ですが、初期は、手指全体のむくみ、手指の曲げ伸ばししにくさといった、関節リウマチとよく似た症状がみられます。

ベーチェット病の関節炎は、膝に多くみられます。関節以外の病変として代表的なのは、口の中の潰瘍(口内炎)です。これはかなり痛い潰瘍です。そのほかに、にきびのような発疹や、眼のぶどう膜炎による視力の低下、外陰部の潰瘍を起こすことがあります。


「最近、増えてきている乾癬性関節炎」

ほかにも重要な関節炎があります。これは具体的な例をあげて説明します。
72歳の女性がご自分の判断で、当科を受診されました。
15年前に、眼の乾燥、口の乾燥で、シェーグレン症候群といわれています。
10年前に、手の指の痛みや変形が始まります。その後もずっと続いています。
5年前に、両手のむくみのため、皮膚の組織を調べて、強皮症と診断されています。
3年前、足の爪白癬を指摘されました。外用薬ではよくなりません。手の爪にも同じような症状がでてきました。
2ヶ月前、眼の見えづらさがあり、近くの眼科でぶどう膜炎を指摘されました。
これは何かあるに違いない、手足の関節の痛みもずっと続いているのは変だ、と思われて当科を受診されたわけです。
治療は、ステロイドを使ったこともありましたが、効果不十分で中止しています。

この人と同じ関節炎の人の爪や指の写真をお示しします。たしかに、水虫のような爪をしています。爪のまわりの皮膚もかさかさしています。爪に隣接する、手の指のDIP関節(第一関節)が腫れています。手の指全体がむくんだようになっています。
レントゲンで見ると、手の指のDIP関節は、骨が増えている部分(骨棘)と虫食いになっている部分(骨びらん)が共存しています。
この人の関節炎は何なのでしょうか。
クイズではないので、答えをいいますと、この人は「乾癬性関節炎」です。
乾癬性関節炎は、DIP関節の関節炎症、アキレス腱の付着部の炎症、脊椎の炎症(関節リウマチでは脊椎の炎症は少ないと冒頭に説明しました)、指炎(指全体の炎症)、爪の変化によって特徴づけられる病気です。眼のぶどう膜炎による視力低下も起こることがあります。

皮膚に典型的な乾癬がでていなくても、乾癬性関節炎は起こりえます。国内の報告では、3人に1人は、関節症状が皮膚症状よりも先行、もしくは同時に起こるということが報告されています。特に、関節炎を起こす乾癬は、爪病変の合併が多いことが知られています(約2倍)。
典型的な爪病変は、以下の4種類です。

①点状陥凹:爪のあちこちに、小さな点状のひっこみ(陥凹)が出来るパターン
②爪甲剥離:爪が先端から剥がれていく感じのパターン
③爪白癬様:爪の水虫のように、爪全体が白く角質化したようになるパターン
④油滴:爪の一部が、丸く、透明に抜けるように見えるパターン

このような爪の場合には、乾癬性関節炎の可能性を、関節リウマチに優先して考える必要があります。
この乾癬性関節炎の仲間の「脊椎関節炎」は最近増えている傾向にあります。これらの疾患は、炎症性の腰痛をきたすのが共通症状です。
その代表的なものとして、以下のような病気があります。
反応性関節炎:クラミジアなどの感染症によって誘発される関節炎
炎症成長疾患関連関節炎:炎症性腸疾患は、安倍首相の病気です。1期目の時よりも、治療が進歩しましたので、2期目は頑張っていられるようです。この病態にともなう関節炎です。
強直性脊椎炎:比較的若い人の病気です。背骨や股関節の炎症が主となります。
これらの疾患は、専門医によって管理すべき疾患です。

乾癬性関節炎は、MTX(リウマトレックスなど)や、TNF阻害薬、IL-17阻害薬などで治療します。先ほどの患者さんは、メトトレキサートとTNF阻害薬を導入して、3日で痛みがなくなりました。

炎症を起こす場所の違いでも、関節炎は区別されます。RS3PE症候群では、関節リウマチと違って、関節滑膜ではなく、腱鞘の滑膜に炎症が起こります。
図に示しましたように、筋肉と骨をつないでいる「腱」という組織は、「腱鞘」という組織で保護されています。手の背中側では、「腱鞘」はちょうど手のひらの反対側から手首にかけて分布しています。RS3PE症候群ではこの部分がぷっくりと腫れてきます。
RS3PE症候群の場合は、典型的にはリウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体は陰性です。悪性腫瘍(癌)を合併することがあるので、注意が必要です。

さらに、リウマチ性多発筋痛症では、関節滑膜ではなく、「滑液包」の炎症が起こります。
典型的には、リウマチ性多発筋痛症は、肩関節や股関節の周辺に起こります。
図に示しましたように、上腕骨と肩甲骨の間の関節滑膜が病変の主座ではなく、腱や筋肉のすべりをよくするための「滑液包」(魚の浮き袋のような袋状のものです)に炎症を起こしてきます。
リウマチ性多発筋痛症も、典型的にはリウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体は陰性です。

さらに炎症ではないのに、関節が痛み、障害をきたす疾患もあります。それが線維筋痛症です。
線維筋痛症は、全身の筋肉が骨に付着するところ、付着部の圧痛をきたすことで、診断されます。
自己免疫反応や、炎症反応は認められません。
全身の強い痛みで生活も困難になり、多彩な自律神経失調症状(下痢や便秘、動悸、胸のつかえ、のぼせる感じ、37.5度以下の体温上昇など)がでてきます。
心身症の要素の強い病態ですので、治療は抗うつ作用もある、筋肉をリラックスさせる薬(リリカ、SNRI、SSRIなど)を使ったり、ストレス要因の除去をはかります。
関節リウマチに合併することもよくあるので、評価が難しくなります。


「関節リウマチの診断の決め手」

このように、様々な疾患を除外したうえで、関節リウマチと診断し、治療を開始します。
それでは、最後の決め手として、関節リウマチの診断で重視されるのは、どのようなことでしょうか。

関節リウマチは、遺伝的な素因の上に、喫煙や歯周病などの環境要因が加わって、まず免疫の異常、リウマトイド因子や抗CCP抗体という自己抗体が作られていきます。
(とくに喫煙は、発症に影響するだけではなく、治療効果不良にも関連しますので、関節リウマチとわかったら禁煙するべきでしょう)
(遺伝の影響は大きいものではありません。関節リウマチは通常、300人に1人が発症する病気ですが、お母さんが関節リウマチにかかっている場合、生まれた子供が関節リウマチを発症してくるのは100人に1人とされます。ほとんどのお子さんは大丈夫だということになります)
自己抗体は、ひとたび産生されたら、だんだんと増えていきます。
その過程で(ここのメカニズムはまだ不明です)、関節に炎症が起きてきます。
最初は関節の炎症による症状は、少し痛みが出てはおさまるなどといった、はっきりしないものですが、だんだんと固定化し、その勢いが強くなっていきます。
ここで関節リウマチと診断されます。
ですから、関節リウマチの発症には、「自己抗体の産生」と「関節炎症」が大事だということになります。

実際に、関節リウマチの分類基準では、関節の炎症所見と、自己抗体が重視されています。
この分類基準では、4つの領域の合計スコアが6点以上だったら、関節リウマチと考えて、MTX(リウマトレックスなど)による治療を開始しなさいということになっています。
関節炎症所見(痛みと腫れ)には、最大5点、自己抗体(リウマトイド因子、抗CCP抗体)には最大3点が割り振られています。
これに対して、前述しましたCRPの値などは、個人差が大きいので、最大1点しか割り振られていません。
もう一つの領域、症状の持続期間(6週間以上)に関しても、最大1点しか割り振られていません。
この分類基準をよりどころにして、最終的に関節リウマチという診断がなされます。

さあ、これで、関節所見と自己抗体(リウマトイド因子、抗CCP抗体)を中心に、関節リウマチの診断がつきました。
後半では、治療について、諸事情により標準治療ができない場合を含めて、お話していきます。


第2部 「関節リウマチの最新の治療-どこまで症状をおさえるか」

さて、前半のお話で、少しお疲れになったかもしれませんが、後半では、いよいよ治療の話に入っていきます。


「関節リウマチの治療目標」

治療の目標は、2014年の日本リウマチ学会のガイドラインでは、「身体機能障害の防止と生命予後の改善を目指す」となっています。世界標準の治療指針であるT2Tの2015年改訂版では、労働(からだを使って働くこと)能力(家事労働も含めて)が求められています。治療目標はより高いものになっています。

しかし、見方を変えれば、関節リウマチの治療目標は、1300年前の奈良朝の時代から変わっていません。ここでは、万葉集第5巻の山上憶良の歌をお示しします。もとの歌は長歌ですので、抜粋したものをご紹介します。
「四支動かず、百節みな疼(ひいら)ぎ、身体太(はなはだ)重きこと
猶(なほ)し鈞石を負いたるがごとし。
布に懸かりて立たむと欲へば、翼折れたる鳥のごとく
杖に椅りて歩まむとすれば、足なへく驢(うさぎうま)のごとし」
現代の診断手法を用いても関節リウマチと考えられます。
この患者さんの望みは、
「仰ぎて願はくは、頓(たちまち)にこの病を除き
頼みて平(つね)のごとくなること得むと」
ということで、やはりこれまでの普通の生活を回復し、継続していけるようにすることが治療目標であることには、変わりがありません。

では、そのような目標を現実化するための、関節リウマチの治療の基本的な考え方はどのようなものなのでしょうか。


「関節リウマチ治療の基本原則」

関節リウマチの治療は4階建てになっています。火事にたとえれば、できるだけ下の階で延焼を抑えて、2階、3階、4階に火がまわっていかないようにするというものです。
1階は関節の炎症で、これを抑えていかないと、2階の関節破壊をひき起こしてしまいます。2階の関節破壊を抑えていかないと、3階の関節機能の低下を招いてしまいます。
3階の関節機能の低下を起こしてしまいますと、4階の現在の生活の継続、労働能力の確保、生命予後の改善ということは望めなくなっていまいます。
結局のところ、1階の火事、炎症をどれだけ抑え込めるかということが、治療の鍵となってきます。

2階、3階へと火を燃え広がせていかないための、1階の炎症抑制の治療目標が、2011年に出されました。
それによると、「寛解」を目指すことになるのですが、よりわかりやすい数値目標でいきますと

①圧痛関節数は1以下
②腫脹関節数は1以下
③CRP値は正常
④患者さん自身の評価で、最悪を10とした場合の現状が1以下
の全てを充たすことになります。

これは、発症して間もない患者さんの目標で、発症してから時間の経過している長期罹患の患者さんでは、これらの数値は3程度まで容認されます。3くらいまでは、関節機能の悪化がそれほど進まないということがわかっているからです。


「関節リウマチの治療薬の種類」

現在、保険承認されている抗リウマチ薬は、合成抗リウマチ薬と、生物学的製剤に2分されます。合成抗リウマチ薬は、基本的に内服薬、飲み薬で、生物学的製剤は注射の薬(点滴・皮下注射)です。
合成抗リウマチ薬は、従来型(リウマトレックス:MTX、アザルフィジンEN、リマチル、プログラフ、ケアラム、アラバ、シオゾールなど)と、標的型(標的を限定して、効果を高めたもの:現状ではゼルヤンツのみ)があります。
生物学的製剤には、先発品(レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジア、アクテムラ、オレンシア)と後発品(バイオシミラーといいます。現状では、レミケードBSのみ)があります。


「関節リウマチという診断がついたら、最初に優先して使われるのは、MTX」

では、これらの薬を具体的にはどのように使っていくのでしょうか。
日本リウマチ学会の2014年診療ガイドラインをみてみます。
基本的にはMTXが禁忌、つまり使えない状況でない限りは、MTX(商品名リウマトレクスなど)から治療を開始することになっています。

MTXがなぜ他の抗リウマチ薬よりも優先されるのでしょうか。 
 
これは、MTXと、代表的な従来型抗リウマチ薬であるアザルフィジンENの関節破壊抑制効果を比較したStudyの結果です。ごらんのように、MTXは明らかにアザルフィジンENよりも関節を守る効果が高いことがみてとれます。このために、MTXが、他の従来型抗リウマチ薬よりも優先して、使用が推奨されるのです。

しかし、MTXが良い薬といっても、必ずしもすべての患者さんに十分な量が使えるわけではありません。
MTXは高齢者では、分解・排泄が遅くなりますので、血中濃度が高まって、副作用(血球減少など)が起こりやすくなります。このため、慎重投与の対象となります。また、腎機能が悪いときも(高齢者では加齢によって腎機能が悪化してきます)、MTXの血中濃度が高まって、副作用が起こりやすくなります。発熱や食欲不振で脱水になりますと、腎機能が悪化しやすいので、このような時はMTXの服用を中止するなどの対応が必要です。
高齢者には、MTXよりも生物学的製剤のほうが安全といえるかもしれません。

さらに、MTXには、治療効果の点でも限界があります。前半の話で触れました、関節の炎症の程度を4段階で評価しますと、治療を開始した時点で、高疾患活動性である患者さんの場合には、このオレンジ色の破線のレベル以下の、治療目標達成は、困難なことが多いことをこの図は示しています(このような患者さんの場合には後述する、MTX+生物学的製剤の併用を、治療開始時から考慮していくのが適当だと考えられます)。


「MTXの限界を克服する試み」

さて、MTXの限界を克服する試みが欧州でなされています。それをご紹介します。

これはヨーロッパで、現在作成中の治療ガイドラインです。まだ未確定のものなので、今後変更されるかもしれませんが、ここでは、MTXに加えて、ステロイドが+、つまり併用必須となっています。ステロイドは安価な薬剤ですので、経済的に厳しい東欧の委員が、これを主張したと聞いております。

この根拠となったスタディの一つをご紹介します。このスタディでのCOBRA-Slimといわれる治療は、MTX週15㎎とステロイド(プレドニゾロン)30㎎から開始されます。プレドニゾロンは1週間ごとに、30mg-20mg-12.5mg-10mg-7.5mg-5mgと減量されて、6週で中止となります。
この治療によって、4週間で最大の治療効果が得られ、6割の人が寛解の状態を達成しました。しかも、6週間でステロイドを中止した後も、疾患活動性が再燃する患者さんはほとんどいらっしゃいませんでした。
日本のリウマチ患者さんの平均体重が52kg、ヨーロッパの患者さんの平均体重が72~75kgということを考えますと、日本でこの治療を行うときは、3分の2のMTX10㎎+プレドニゾロン20㎎で始めてもよいのかもしれません。

現在模索されている治療方法をご紹介しました。しかし、一般的には、MTXで効果不十分なときにはどのように対応するのでしょうか。


「MTXが効果不十分な時の一般的な対応は、生物学的製剤追加」

先ほどからご紹介しています、日本リウマチ学会の診療ガイドラインでは、基本的には、生物学的製剤を追加することになります。

生物学的製剤には現在7種類があります。先ほどお示ししましたように、TNF阻害薬の、レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジア、IL-6阻害薬のアクテムラ、T細胞共刺激阻害薬のオレンシア、そしてバイオシミラーのインフリキシマブBSです。
破骨細胞を抑えるプラリアも生物学的製剤ですが、ここでは省きます。

生物学的製剤は、1階の炎症反応を抑える効果も強力ですが、2階の関節破壊を抑える効果も強力です。
ここでは、生物学的製剤の中で、TNF阻害薬ヒュミラを例にとってご説明いたします。縦軸は関節破壊の程度で、横軸は治療を開始してからの時間経過です。
MTXで治療を開始しますと、6か月のうちに、平均でこれくらい関節破壊が進行していきます。
この時点でヒュミラを追加しますと、その後は、ほとんど関節破壊の進行がなく抑えられています。MTXで不十分な患者さんへの生物学的製剤の有用性は明らかです。


「最初から生物学的製剤を使用することも」

また、少し話はずれますが、治療開始の時点からMTX単独ではなくてヒュミラを併用した場合には、6か月の時点でも、さらにその後の時点でも、関節破壊はほとんど進行していません。高額の治療にはなりますが、最初からMTXと生物学的製剤を併用する治療の優位性は明らかです。
わが国の保険診療では、生物学的製剤は、原則としては従来型の合成抗リウマチ薬が効果不十分の場合に、適応になっています。
しかし、ヒュミラとシムジアだけは、MTXなどの効果をみるまでもなく、治療の最初から使用可能な生物学的製剤となっています。

それでは、生物学的製剤が使えない時はどうしたらよいのでしょうか。これは、現実の診療では頻繁に遭遇する事態です。

MTXの効果が不十分な場合に保険診療で使える薬は、生物学的製剤、標的型合成抗リウマチ薬、従来型合成抗リウマチ薬、ステロイド剤ということになります。
ここでは、唯一の標的型合成抗リウマチ薬である、ゼルヤンツについてご紹介しようと思います。


「生物学的製剤と同様の立ち位置にある、ゼルヤンツ」

ゼルヤンツは、炎症に関わる細胞に入ってくる刺激を、受容体の根元で抑え込んで、炎症反応を抑える薬です。
作用する受容体の構造が限定されているので、標的が限定された薬剤ということで、MTXやアザルフィジンEN、リマチルといった従来型の合成抗リウマチ薬と区別されます。標的が限定されていることで、炎症を抑える作用もより強いものになっています。

ゼルヤンツと生物学的製剤はどのような違いがあるのでしょうか。どちらも標的を限定した薬ですが、標的の範囲に差があります。
IL-6阻害薬のアクテムラを例にとってご説明します。アクテムラはこの図の真ん中のgp130の経路を抑制します。これに比べて、ゼルヤンツは、左の共通γ鎖や右のインターフェロンの経路も抑制します。
ゼルヤンツはより多くの標的を抑制し、アクテムラはより選択性高く抑制するといえます。

さて、MTXが効果不十分の時、生物学的製剤とゼルヤンツとでは、どちらのほうがより有効なのでしょうか。これまでの報告からしますと、ここにお示ししましたように、効果は同等で、どちらを選んでも差し支えないということになります。


「治療にかかるコストの問題」

実は治療に関しての一番の問題は、お金の問題です。治療にかかるコストを低減できないものでしょうか。

生物学的製剤は高価な薬です。標準的な、3割負担の人の1か月の費用負担は、エンブレル半量でも18,000円、アクテムラ皮下注で23,000円、それ以外は36,000円程度であり、ゼルヤンツはさらに高額で47,000円です。
頼みの高額療養費制度も、全員には適用されません。

高価な生物学的製剤は、その経済的な負担の重さから、受け入れがたいものになっています。たとえば、勤労者に比べて、家庭の主婦は、生物学的製剤の導入が遅れるという報告があります。遅れる理由は、生物学的製剤が高額であるために、家族のことを考えて遠慮 してしまうためと考えられています。
導入が遅れた結果、せっかく生物学的製剤を導入しても、主婦の場合は勤労者よりも関節機能の回復が不良であることが、同じ報告で示されています。

実は、関節リウマチにおいては、関節の破壊が最初の2年に最も急速に進行してしまうので、初期の治療が最も大切なのです。適切な導入のタイミングを逃してしまうと、さしもの生物学的製剤も関節の構造を元通りにするような作用はありませんので、痛みなどは楽になっても、何らかの機能障害が残ってしまうことになります。


「関節リウマチ治療コストの低減のために」

生物学的製剤の高コストの問題に対する一つの解決手段が、バイオシミラーです。
バイオシミラーは、生物学的製剤のジェネリック薬品(後発品)に相当するものです。価格は、現状では先発品の7割ですが、今後、5割程度に下がっていくのではないかといわれています。現状は、レミケードのバイオシミラーしかありませんが、間もなく、エンブレルやヒュミラのバイオシミラーも承認されていきます。
ここに示しましたのは、先発品の生物学的製剤を使っている患者さんを、ある時点で二つのグループに分けてその後の経過をみたものです。一つのグループはそのまま先発品を使い続け、もう一つのグループはバイオシミラーに切り替えています。治療効果を2年間にわたってフォローしていますが、ごらんのように、この二つのグループはどの時点でも効果は同等です。バイオシミラーは先発品と同等であることを示しています。

さらに、2階の関節破壊を抑制する目的であれば、プラリアという薬もあります。
この薬はパンヌスの最前線で骨を破壊している細胞、破骨細胞を特異的に抑制する生物学的製剤です。破骨細胞を抑制しますので関節の破壊をとどめることはできますが、痛みや腫れといった直接の炎症症状はそのままで、改善させることはできません。
これがプラリアの欠点ですが、逆に言えば、炎症抑制に伴う免疫抑制作用などはないので、他の生物学低製剤と安全に併用できるというのが大きなメリットです。
現在は骨粗しょう症の薬として保険承認されています。

破骨細胞を抑え込むプラリアの、関節破壊の抑制効果をお示しします。
これは、患者さん一人一人の関節破壊の進み具合を、進まなかった人から進んでしまった人まで、一人一人並べていった図です。この黒い点は、プラリアを使っていない人を表しています。この赤い点が、プラリアを6か月ごとに皮下注射(骨粗しょう症と同じ使用方法です)した患者さんを示しています。ごらんのように、プラリアを使用した赤い点で示された患者さんのほうが関節破壊の進行が少ないことがみてとれます。
プラリアの年間薬価は、骨粗しょう症で広く使用されているビスフォスフォネート製剤と同額です。もしも、関節リウマチの患者さんで骨粗しょう症を併発しているのであれば、問題がないかぎり、プラリア使用を前向きに考えるべきでしょう。
プラリアは、間もなく関節リウマチの病名で保険承認される予定です。


「生物学的製剤を使っても効果不十分の時の対応」

それでは、せっかく高価な生物学的製剤を導入したのに、効果不十分の場合はどのように対応するのでしょうか。

生物学的製剤が効果不十分の場合は、結局、以下の組み合わせで対応するしかありません。

①生物学的製剤の変更
②ゼルヤンツの導入(ゼルヤンツと生物学的製剤は併用することはできません)
③従来型合成抗リウマチ薬の追加

また、増量や期間短縮の可能な生物学的製剤の場合は、それを試みます。
レミケードは増量と期間短縮が可能です。
シンポニーは増量が可能です。
ヒュミラも増量が可能ですが、増量した場合はMTXを併用できないという欠点があります。

特に、生物学的製剤はある程度は効いていて、もう少し炎症を抑えれば治療目標を達成できるという場合であれば、従来型の抗リウマチ薬を追加する方法が有効です。これはケアラムという薬を追加した場合の成績です。生物学的製剤を使っていて、平均して中等度疾患活動性であった患者さんが、ケアラム追加6か月後には、平均して寛解レベルにまで炎症が抑えられていることがわかります。


「生物学的製剤の減量・中止」

さて、生物学的製剤は高価なので、ある程度の期間は使い続けられるが、長期にはお金が続かないということもよくあります。そのために、生物学的製剤を導入して、寛解や低活動性という目標を達成した後で、減量・中止することはできないか、という考えが、当然に出てきます。

日本リウマチ学会の関節リウマチ診療ガイドラインでは、
「生物学的製剤投与中で、ステロイド減量後も寛解が維持できていれば、特に従来型抗リウマチ薬併用の場合に、生物学的製剤の減量を考慮できる」とされています。
生物学的製剤を使って治療目標を達成したら、まずステロイド剤を減らしましょう。ステロイドを減量、中止しても治療目標を達成できているのであれば、生物学的製剤を減らすことを考えてもいいですよ。ただし、その場合は従来型の合成抗リウマチ薬を併用して、ある程度の疾患抑制をかけておいたほうがいいのではないでしょうか。というメッセージをガイドラインは発信しています。

減量・中止に関しては、これまでに様々の報告がなされています。
さまざまの条件が交錯しているので、これら多数の報告から一定の結論を導き出すのは困難ですが、減量・とくに中止の成功率を高める条件は現在比較的コンセンサスが得られているのは、以下の二つです。

①生物学的製剤の導入時期が発症早期(とくに3か月以内は成功率が高いことが知られています。報告によっては成功率が9割近いものもあります)。
②生物学的製剤を中止する前に、関節痛や腫れが全くないような深い寛解状態を持続していること(しかし、この寛解の持続期間について、6か月が適当か、1年以上が適当かなどは、わかっていません)。

しかし、みんなが発症早期というわけではありません。そのような場合に、生物学的製剤中止の成功率を上げるためには、従来型の合成抗リウマチ薬の併用が有効であるという報告があります。
ここにお示ししましたように、生物学的製剤を中止した時点でMTX単独で治療されていた患者さんでは、生物学的製剤中止後に約60%再燃してしまっています。
それに対して、MTXとリマチルの併用で治療されていた患者さんでは、生物学的税剤中止後に再燃してしまった患者さんの割合は約30%と、半減しています。
先述した関節リウマチ診療ガイドラインでの「特に従来型抗リウマチ薬併用の場合に、生物学的製剤の減量を考慮できる」との記載でも従来型抗リウマチ薬の意義を謳っています。

生物学的製剤の減量の話と中止の話が混和してしまったので、減量に関して、もう少しコメントします。
減量のしやすさについては、製剤間で差がありますが、基本的に、通常投与量の半分くらいにまで1回投与量を減量するやり方と、投与間隔を1.5~2倍に延ばすやり方があります。
減量の問題点は、生物学的製剤の血中濃度がゼロになることが繰り返されると、生物学的製剤に対する「抗体」ができてしまう可能性が高まることです。「抗体」ができると、治療効果は著明に低下してしまいます。
この点では、減量よりも、すっと止める、中止のほうがリスクは少ないでしょう。半年間くらいの予定の中止を行い、再開する手法を、「ドラッグ・ホリデイ」といいます。


「関節リウマチにおいて、関節以外に患者さんが注意すべきこと」

最後に、関節リウマチ患者さんが、関節炎症以外で注意すべき点についてお話しします。このことについては、次回の市民公開講座でより詳しく触れるつもりです。

関節リウマチでは以下のような合併症のリスクが増え、 以下のような合併症のリスクは減るとされています。
リスクが増えるのは
  肺癌
  リンパ増殖性疾患
  動脈硬化による心血管の病変
  感染症
  骨粗しょう症
  消化管病変(消化性潰瘍、憩室炎)
  抑うつ
  リスクが減るのは
  大腸癌
  アルツハイマー病

本日は、時間の関係で、リンパ増殖性疾患だけのお話をします。体の表面や体の中のリンパ節が腫れる悪性腫瘍(癌)の一種です。厳密にいいますと、関節リウマチ患者さんに起こるリンパ増殖性疾患は、悪性リンパ腫(癌)とは違う病態が多く含まれています。

さて、リウマチ患者さんの発がんリスクはどうなっているでしょうか。国内の多施設共同の報告をご紹介します。
細かいスライドで申し訳ありませんが、結論だけいいますと、日本のリウマチ患者さんでは、リンパ増殖性疾患のリスクが3倍くらいあります。これに対して、大腸がん、直腸がん、肝がん、白血病はむしろ少なくなっています。

関節リウマチ患者さんでは、MTXや生物学的製剤が導入される前から、リンパ増殖性疾患が多いということがわかっていました。リンパ増殖性疾患のリスクは、炎症のコントロールが不十分な状態で長期間経過してしまった場合に高いと、いわれています。
最近では治療にともなうリンパ増殖性疾患のリスクも指摘されています。そのリスクとしては、生物学的製剤よりも、免疫抑制剤(MTX、プログラフ、イムラン)のほうが高いと報告されています。生物学的製剤が登場した初期の時点で、リンパ増殖性疾患が増えるという報道がいくつかなされましたが、これは否定的です。
また、これを聞いて、リウマトレックスやプログラフをあわてて中止する必要はありません。頻度は非常に低いものですし、薬を止めれば改善することが多い病態です。また、さきほど述べましたように、関節リウマチの炎症を放置しておくことも、リンパ増殖性疾患のリスクを高めてしまいます。

まだまだお話ししたいことはたくさんありますが、時間が来てしまいました。

本日の話のまとめです。

#関節リウマチの診断は、他の病気と区別する鑑別疾患が大事
 とくに「乾癬性関節炎」が最近増えている
#治療に入ったら、関節の炎症をできるだけ抑えることが大事
 炎症を抑えることができれば、仕事も続けられる
#関節の炎症の強さを評価するときに大事なのは、CRPよりも関節の痛みと腫れ
#MTX(リウマトレックスなど)が治療の中心だが
 高齢者などでは、生物学的製剤のほうが安全なことも
#MTXで効果不十分な場合、生物学的製剤が使われることが多いが
 標的型合成抗リウマチ薬のゼルヤンツも同等の効果を持っている
#関節の炎症だけでなく、合併症への対応も重要(次の講演への宿題です)


本日は、長時間にわたるお話にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
ご理解しにくい点も多かったとおもいますが、その責任はひとえに演者である私にあります。それでも、何か、皆様のお耳に残るところもあったのではないかと思われます。
本日の私の話が、少しでも、ここにいらっしゃいます皆様のお役に立つことができたのであれば、これほど嬉しいことはありません。
本日は、長時間、本当にありがとうございました。


 
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